
キャリアに悩んだときに人は、
今すぐに見つかる「正しい答え」を探そうとしてしまいます。
・すぐにでも転職したほうがいい。
・嫌でも続けるべきかもしれない。
・本当にこのままでいいのか。
しかし、キャリア心理学の視点では、
悩みの中にいるときほど、すぐに答えを出すのではなく、
自分の状態を正確に知るために、心に問いかけることを大切にします。
ここでは、キャリアに迷ったとき、自分へ向けてみてほしい10の言葉を紹介します。
1 今、本当にいちばん苦しいのはなにか
今、感じている苦しさは、正確に言葉にするのが難しい気持ちではないでしょうか。
言葉にできないからこそ、漠然とした不安はよりおそろしく感じます。
しかし、漠然とした不安の中には、必ず中心に別の感情があります。
心に問いかけてみてください。
「今、本当にいちばん苦しいのはなにか」
それは本当に将来への不安という一言で済むものでしょうか。
転職をするか、しないか、という単純な悩みなのでしょうか。
大切なことは素直な心を見つめることです。
これは試験ではありません。評価されるわけでもありません。
幼いころから人の目を気にして生きてきた人は、自分の感情にさえも目を向けずに、
人の感情を気にして自分を合わせてきた過去があります。
そうすると、いつの間にか、考えてはいけない感情とあるべき感情に選別をして、
自分のありのままの感情から遠ざかってしまいます。
自分の心の中は、あなたが守ってくれる場所です。だれにも評価されません。
どう考えるのも、どう感じるのも、あなたの自由です。
ですから、もう一度聞きます。
「今、本当にいちばん苦しいのはなにか」
2 この苦しさは、いつ頃から続いているだろう
それは突然やってきたものなのか。
少しずつ積み重なったものなのか。
時間の流れを振り返ることで、見えてくるものがあります。
人の感情はゆっくりと変化します。ときには劇的に感情が変わることもありますが、
その感情もまたゆっくりと変化していきます。
あのときは怒りに震えるような気持ちだった。
会社を辞めてやるとまで思った。
しかし、その感情さえ長続きはしません。ゆっくりと変化して、
1年後には正確に思い出すことさえむずかしいのではないでしょうか。
逆もしかりです。日々の感情は些細な変化でも、それが1年後には形を変えて大きな感情に変化してしまっていることもあります。
まず、突然やってきた感情は変化を見守ることです。変化しない感情はありません。多くの場合、その感情はゆるやかに落ち着いていきます。
ですから、キャリアに悩むのはそのあとでもよいのです。
ところが、日々の積み重ねで大きくなってしまった感情はすぐには変化しません。
これに気づいたときには、ブレーキを踏んで、どこからその感情の道を進んできているのかを振り返ることです。
このときにもすぐに引き返そうとするのではなく、じっくりと地図を眺めることです。
心の中で感情が迷子になってしまった。その分かれ道はどこからで、どこに戻るのか。
このまま進むにしてもどこかで道を変えるべきなのか。
その判断材料として、
これまでの道のりを整理するときなのではないでしょうか。
3 仕事そのものと、環境のどちらがつらいだろう
感情を整理したうえで、より具体的な理由を探してみます。
ここでは内側ではなく、外側に向かう矢印のイメージです。
それは仕事内容なのか。
人間関係によるものか。
それとも評価なのか。
多くの場合、気持ちを整理するよりも先にこのことを考え始めます。
なぜなら人にも自分にも納得がしやすい、わかりやすい理由だからです。
しかし、先にこのことを決めてしまうと、後からそれに相応しい感情を当てはめるように考えてしまいます。
仕事内容が合っていないんだと考えると、合う仕事を見つけたいという気持ちが生まれます。
しかし、実際には仕事内容が合っていないのではなく、
職場に居場所を感じられないことが理由なのかもしれません。
ですから、先に感じること。考えるのはあとです。
感情が明確になったうえで、外側に矢印を向けてみます。
職場に居場所が感じられないのはなぜか。それは、仕事内容ではなく、人間関係によるものではないでしょうか。だとしたら、どのような人間関係を望んでいるのでしょうか。
もっと深めてみましょう。職場の人間関係に不満。本当にそうでしょうか。
もしかすると、生活をするために仕事を辞めることができず、人間関係に耐えなければいけないと思うこわさなのかもしれません。
さらに深く考えていくと、自分と環境の間にある大きなギャップに気づき始めます。
4 今の自分は、何を大切にしたいのか
安定か成長か。自由か安心か。
今の自分は、何を大切にしたくなっているのかを考えます。
エドガー・シャインは「キャリア・アンカー」 と呼ばれる8つの分類を提唱し、
人はキャリアの選択において、
どうしても譲れない「8つの価値観・欲求」を持つと提唱しました。
アンカーは錨のことで、心の中で最も引っかかるポイントのようなイメージです。
1 専門・職能別能力
特定の分野で専門性を高めることに価値を置くタイプです。
管理職や地位よりも、「腕を磨くこと」「専門家として認められること」に動機づけられます。
2 全般管理能力
組織全体を動かす立場に関心を持つタイプです。
調整、意思決定、責任を引き受ける役割にやりがいを感じます。
3 自律・独立
自分の裁量で働くことを重視するタイプです。
組織のルールや指示よりも、自由度の高さが重要になります。
4 保障・安定
安定した雇用や生活基盤を大切にするタイプです。
変化よりも、継続性や予測可能性に安心感を見いだします。
5 起業家的創造性
新しいものを生み出すことに価値を置くタイプです。
既存の枠組みに収まるより、ゼロから形にすることに魅力を感じます。
6 奉仕・社会貢献
誰かの役に立つこと、社会的意義を重視するタイプです。
報酬や地位よりも、仕事の意味が重要になります。
7 純粋な挑戦
困難な課題に挑むこと自体に動機づけられるタイプです。
達成の難易度や競争性が、エネルギー源になります。
8 生活様式
仕事と私生活の調和を重視するタイプです。
どちらかを犠牲にするのではなく、全体のバランスを大切にします。
これらは確たる自分を表すものではなく、
「今、なにを大切にしているのか」を考えるためのヒントです。
価値観は、人生の時期によって変わります。今は自律して仕事ができるようになりたいと思っていても、数年後にはライフイベントによって、生活とのバランスが大切に感じるときがくるかもしれません。
大切なことは、今の自分の価値観を知るということです。
5 誰の期待を背負っているのか
人はソーシャルアニマルと呼ばれ、社会的な生き物です。
個体としてはひとりで生きていますが、その心の中には多くの人々が同居しています。
在宅ワークがこれだけ普及して、部屋でひとりで仕事をするようになっても、心の中には会社の上司や部下、同僚など多くの人と一緒に仕事をしている感覚があるはずです。
両親と離れて暮らしていて、連絡を取りあうこともあまりない。
しかし、心の中には両親の存在がしっかりとあり、
「両親はどう思うだろうか」と選択に影響を受けています。
そして、気づかぬうちに他人の期待を背負っていることもよくあります。
「見栄」や「虚栄心」と呼ばれる感情に動かされていることも多いものです。
その選択は自分の期待か。それとも周囲の期待か。
無意識に背負っているものに気づくことが大切です。
いつの間にか、自分らしくない選択をしてしまっていることに気づくこともあります。
6 失敗を恐れなくていいとしたら、どう考えるだろう
悩みというのは、守りたいものと変えたいもの。その両方を手にしたいと思ったとき、失うリスクに対して評価をすることです。
守りたいものよりも変えたいものがそのリスクを上回るときに人は決断をします。
多くの場合にはどちらも大切で、決めることができません。
実は、決められないこと自体は問題ではありません。
かっこわるいことでもありません。
問題は、そのリスクを正しく評価する前に、
「恐れ」によって自分の感情に向き合うことを避けてしまうことです。
本当は自分に合った仕事があるはず。
だけど、今の生活を続けるためには、今の条件以上のところはきっと見つからない。
そう思ったときに、「今の仕事に満足している」と自分に言い聞かせてしまうのです。
これは、認知的不協和と呼ばれています。これは、1957年に心理学者のフェスティンガーが提唱したもので、童話「すっぱい葡萄」が有名です。キツネが届かない葡萄を、
「あの葡萄はすっぱくて不味いに違いない」と価値を下げることで、
手に入らなかった事実を受け入れる心理的な構造です。
大事なことは「本当は食べてみたいあの葡萄」という本当の気持ちを受け入れることです。そのためには、リスクによって生じる恐れを一度横に置いてみることで、本音が浮かびやすくなります。
本音に従って行動することは絶対ではありません。
そうしている人は世の中で限られた人ではないでしょうか。
多くの場合、本当はこうだけど、こうする。のが自然です。
ですが、「本当は・・・」の気持ちにはしっかりと向き合うことが大切です。
7 過去の選択を、今の自分はどう意味づけているだろう
キャリアに悩むとき。
人は、「あのとき、こうしていれば・・・。」と過去を振り返ります。
あのときの選択は失敗か。それとも必要な経験だったのか。
過去の事実は変わりませんが、その意味づけは、今の視点で変えられます。
仮に、あのときに資格をとって、専門の道に進んでいれば今の自分はなかったのではないかと悩んでいるとします。しかし、今の自分が手にしているキャリアや生活、それから心の成長、そういったものを差し引いて考えてしまっているのではないでしょうか。
今、手にあるものが当たり前になったとき、人は他のものが欲しくなります。
それが人というものです。
過去を後悔しているとき、多くの場合には今自分が手にしている対価を理解できていません。まずは、自分の手の中にあるものを見つめてください。
そのうえで、過去の選択をどう意味づけするのか。
もう一度見つめなおすことが大切です。
8 この迷いは、何を見直そうとしているサインだろう
迷いは、止まることではありません。
今は迷いの中にいて焦るような気持ちを感じるかもしれません。
しかし、確実に前に進んでいます。
迷いは、自分の価値観や生き方そのものを更新している状態です。
時間がかかります。パソコンのアップデートのように、一晩中かけてようやく更新されるかもしれません。その一晩はあまりにも長く感じることかもしれません。
しかし、迷いや悩みというのは、必ず変化していきます。
その変化を見つめることが、今あなたが一歩ずつ前に進むということです。
この迷いは何を見直そうとしているのか。
それは、価値観かもしれません。人との距離感についての考え方かもしれません。
キャリアの方向性なのかもしれませんし、キャリア・アンカーの変化かもしれません。
迷いがあり、悩みがある。それは、変化の兆しです。
真っ暗闇を歩いているような、そんな気持ちに心が折れてしまうかもしれません。
そんなときこそ、自分の心を正確に理解してください。
さびしい、苦しい、やりきれない、
抑えられないような感情にひとつひとつ向き合い、言葉にしてみてください。
変化の中で、何を見直そうとしているのか、少しずつ明るく見えてくるはずです。
9 この悩みを、誰かに話すとしたら何と言うだろう
悩み、苦しいとき。人は心の中でその悩みをボソボソと紡いでいます。
心の中というのは守られた場所で、しかし、自分で紡いだ言葉が何度も響き渡る場所でもあります。
どこかで、その悩みを誰かに話すことを考えてみてください。
実際に誰かに相談しようと思う必要はありません。
もし、その悩みを、誰かに話すとしたら、なんと言いますか。
カウンセリングの世界では、「話す」ことを「離す」と表現します。
それは、心の中につっかえた感情をひとつひとつ手放していくということです。
人と話すとすっきりした気持ちになる。それは、話す=離すことができたためです。
もし、その悩みを誰かに離すとしたら、どんな言葉で離すでしょうか。
言葉にしようとする過程そのものが、整理につながります。
ずっと心にあるその感情をぜひ手放してみてください。
10 今すぐ答えを出さなくてもいいとしたら、何ができそうだろう
ここまで見てきたように、今ある悩みというのは変化をしています。
まさに、今、この瞬間にも、人の心は刻一刻と変わり続けています。
ですから、結論を出すことでその気持ちを切り捨てることをしないでください。
今感じているありのままの気持ちを受け止め、変化していくことです。
表面的にどんな選択をしても、必ずまた同じところで立ち止まります。
それは地図を見ないで、漠然とした目的地に向かっているような状態です。
大切なことはどこに向かいたいのか、そこに向かおうと思うことで心が高揚する感じがするのであれば、きっとそこはあなたの居場所になるはずです。
そして、そこに向かうためには、自分の感情が描かれた地図をしっかりと見つめることです。自分の心を整理しない限り、いつも行き当たりばったりを繰り返してしまいます。
今は、目の前の漠然とした不安が恐ろしく、結論を出さなければと焦る気持ちがあると思います。
前が見えず、真っ暗な場所のような気がして、それはとてもおそろしいものです。
ですが、こう問いかけてみてください。
今すぐ答えを出さなくてもいいとしたら、何ができそうだろう
キャリアは、正しい選択の連続で決まるものではありません。
待つこと、考えることも、あなたのキャリアのひとつです。
決して履歴書に書けることだけではありません。
自分の思いを見つめることができて、その中で選択をしたひとは、
その人生を語ることができるようになります。
自分のキャリアストーリーを語るとき。それは、
自分の生き方を選んだことに自信を持つことができたときです。
その自信がきっと、心からの安心につながるのではないでしょうか。









