
認知行動療法では実際に起こったA(出来事)をB(認知)しますが、このとき人は出来事をそのまま客観的に理解しているわけではありません。
私たちは日常生活の中で、過去の経験や知識をもとにして出来事を解釈しています。このとき用いられる「思考の枠組み」をスキーマと呼びます。スキーマとは、過去の経験から形成された認知の構造であり、物事を理解したり判断したりする際の基準となるものです。
スキーマという概念は、認知心理学の研究の中で発展してきました。心理学者フレデリック・バートレットは、人は記憶を単純に保存しているのではなく、既に持っている知識の枠組みに合わせて再構成していると指摘しました。その後、認知心理学の発展とともに、スキーマは人の理解や記憶、判断を説明する重要な概念として用いられるようになりました。
スキーマは、日常生活の中で物事を効率よく理解するための役割を持っています。人はすべての情報を一つ一つ分析しているわけではなく、過去の経験から形成された枠組みを利用することで、素早く状況を理解することができます。
例えば、レストランに入ったときには、席に案内され、注文をし、食事をするという流れを自然に理解することができます。これはレストランに関するスキーマが形成されているためです。
スキーマは、判断を助ける一方で、思考の偏りを生むこともあります。人は自分の持っているスキーマに一致する情報を重視し、それに合わない情報を見落としてしまうことがあります。
既に持っている考え方の枠組みが強いほど、新しい情報を柔軟に受け入れることが難しくなることがあります。
認知行動療法の研究では、スキーマはより深い信念の構造としても説明されています。人は幼少期からの経験や人間関係の中で、自分自身や他者、社会についての基本的な信念を形成していきます。
「自分は能力がない」
「人は信用できない」
このような信念が形成されると、それに基づいて出来事を解釈する傾向が生まれます。このような深い信念の枠組みが、日常の思考や感情に影響を与えると考えられています。
キャリアの意思決定においても、スキーマは重要な役割を持っています。人は自分の能力や可能性について一定のイメージを持っているわけですが、この自己に関するスキーマは、どのような挑戦を選ぶのか、どのような仕事に適していると感じるのかといった判断に影響します。
仮に、「自分は人前で話すことが苦手だ」というスキーマを持っている場合、その人はプレゼンテーションを伴う仕事を避ける傾向があるかもしれません。ただし、スキーマは固定されるわけではなく、新しい経験や学習を通して、少しずつ変化していきます。これまでとは異なる経験を積むことで、自分に対する見方や可能性の理解が広がることがありますが、認知行動療法では、思考の枠組みに気づき、それを柔軟に見直すことが重要だと考えます。











