
転移とは、もともと精神分析で用いられてきた概念であり、過去の重要な他者との関係の中で形成された感情や関係のパターンを、現在の別の他者に向けてしまう心理的な現象のことをいいます。
人は、目の前の相手を「その人そのもの」として見ているようでいて、実際にはこれまでの経験の中で出会ってきた人との関係の記憶や感情を重ね合わせながら、相手を理解しています。そのため、現在の相手に対して感じている感情が、必ずしもその人だけに向けられたものとは限らない場合があります。これが転移です。
たとえば、上司に対して強い緊張や恐怖を感じる人がいるとします。しかし、その上司が特別に厳しいわけではない場合もあります。このとき、その人は過去に出会った厳しい親や教師などのイメージを、現在の上司に重ねて感じている可能性があります。このように、過去の対人関係の感情が現在の対人関係に影響する現象が転移です。
転移は日常の人間関係の中でも起こっています。
「なぜかこの人には話しやすい」
「なぜかこの人の前では緊張してしまう」
「理由は分からないが苦手に感じる」
といった感覚も、過去の対人関係の経験が影響している場合があります。
転移を理解することで、
「自分はどのような人間関係の経験をしてきたのか」
「どのような関係の中で安心し、どのような関係の中で不安を感じるのか」
こういった自分の内面を理解することができます。なぜなら、人が他者に対して抱く感情や反応の中には、その人のこれまでの人生経験や対人関係のパターンが表れているからです。
「評価される場面になると強い不安を感じる」
「人に頼ることが苦手である」
「意見を言うと嫌われるのではないかと感じる」
といった反応は、性格の問題だけではなく、これまでの人間関係の経験の中で形成されてきた可能性があります。 このように考えると、現在の人間関係で感じる不安や緊張、安心感や信頼感といった感情は、自分の過去の対人関係を理解する手がかりになります。つまり、人間関係の中で起こる感情は、自己理解の手がかりとも言えます。











