
「キャリア」という言葉を聞くと、就職して異動や昇進を伴いながら形成されていく流れを思い浮かべるかもしれません。それも、キャリアのひとつではありますが、キャリア心理学を学ぶうえでは、「キャリアは時間の流れの中で発達していく」という考え方が重要です。
キャリアは一度の選択で完成するものではなく、経験や環境とのかかわりを通して少しずつ形づくられていくものです。人生全体を通じた変化のプロセスと言うこともできます。
キャリア発達の考え方を理解するうえで中心的な存在が、ドナルド・スーパーです。スーパーは、キャリアを「生涯にわたる発達の過程」として説明しました。スーパーの理論では、人は成長するにつれて役割や価値観が変化し、それに応じて仕事への向き合い方も変わるとされています。
例えば、若い頃は自分に合う仕事を探すことに関心が向きやすく、中堅期には専門性を深めたり、組織の中で責任を担ったりすることがテーマになることがあります。
ライフキャリアレインボー

ドナルド・スーパーが提唱したライフキャリアレインボーは、キャリアを理解するための代表的なモデルの一つです。このモデルは、人のキャリアを「人生の時間的な流れ」と「複数の役割」という二つの視点から捉えることを目的としています。キャリアを仕事だけに限定せず、人生全体の中でどのように役割が重なり合いながら変化していくのかを視覚的に示したものです。
ライフキャリアレインボーの横軸には「ライフスパン」、つまり人生の時間的な流れが表されています。スーパーは、人の発達をいくつかの段階に分けて説明しました。成長期、探索期、確立期、維持期、そして人生後半の段階へと移っていくなかで、人の関心や課題は変化していきます。この段階は年齢だけで決まるものではなく、個人の経験や環境によって前後することがあるとされています。
一方、縦の広がりとして示されているのが「ライフスペース」です。これは、人が人生の中で担うさまざまな役割を意味します。例えば、子どもとしての役割、学生としての役割、働き手としての役割、家庭人としての役割、地域社会の一員としての役割などが挙げられます。人は一つの役割だけで生きているわけではなく、複数の役割を同時に持ちながら生活しています。ライフキャリアレインボーは、これらの役割が人生の各段階でどのように重なり合っているのかを示しています。
このモデルの特徴は、キャリアの中心が仕事だけではないという点です。
例えば、学生期には学習者としての役割が大きく、社会人になると働き手としての役割が強まることがあります。また、家庭の状況が変化すると、家庭人としての役割の比重が増えることもあります。こうした変化はキャリアの停滞ではなく、人生の中で役割のバランスが変わっている状態として理解されます。
キャリアの迷いを理解する

ライフキャリアレインボーは、キャリアの迷いを理解するためにも重要です。
仕事に対する意欲が低下したと感じるとき、それは能力の問題ではなく、別の役割に意識が向いている時期かもしれません。家庭や学び直しなど、他の役割が重要な意味を持っている場合、仕事だけに集中できないことは自然なことです。このように、複数の役割のバランスを見ることで、自分の状態をより客観的に理解できるようになります。
現代社会では働き方が多様化し、副業やオンライン学習など、新しい役割が増えています。ライフキャリアレインボーの考え方は、こうした変化にも対応できる柔軟なモデルです。
人生のある時期に一つの役割が強まることもあれば、複数の役割を同時に担う時期もあります。キャリアは一本道ではなく、役割の重なりによって形づくられていくものだという理解が大切です。











